こんにちは、谷智栄(たに ともひろ)です。
イスラム教徒にとって最も重要な巡礼行事の一つであるハッジについてお話ししたいと思います。
バリ島で事業に携わりながら、インドネシアの文化や習慣に触れることが多くなり、その中でハッジについても興味を持つようになりました。
ハッジとは、イスラム教徒にとって最も神聖な巡礼行事で、サウジアラビアの聖地メッカへの巡礼を指します。
クルアーン(聖典)によれば、すべての身体的、経済的に能力のあるムスリムは一生に一度はハッジを行うことが義務付けられています。
毎年、イスラム暦(グレゴリオ暦より11日短い)の最後の月であるズルヒッジャの8日から12日にかけて行われるこの巡礼には、世界中から数百万人の信者が集まります。
ハッジの起源は630年に預言者ムハンマドが公開宣言を行った時にまで遡ります。
しかし、その根底には、アブラハム(イブラーヒーム)と彼の息子イシュマエル(イスマーイール)によるカアバの建設という、さらに古い物語が存在します。
この物語は、信仰の試練とその強化を象徴しています。
ハッジの中心的な儀式には、カアバの周囲を反時計回りに7回巡る「タワーフ」、サファとマルワの丘間を7往復する「サイー」、アラファトの日にアラファト山での瞑想、そして大量の石を悪魔のシンボルに投げつける「ジャマラート」が含まれます。
カアバはイスラム教の最も神聖な建物で、世界中のムスリムが礼拝の際に向かう方向を示します。
このように、カアバを巡るタワーフは宇宙の秩序と神の存在を象徴し、巡礼者たちはこの動きの中で神聖な結びつきを感じ取ります。
また、サファとマルワの間を行き来するサイーは、アブラハムの妻ハガルが水を求めて走り回った姿を再現しています。
この儀式は、神の慈悲と救済を信じる信仰の強さを思い起こさせるもので、巡礼者はサファとマルワという二つの小さな丘の間を7往復します。
巡礼の終わりには、動物の犠牲が行われ、その肉は貧しい人々と共有されます。
これは「イード・アル・アドハ」または犠牲祭として知られ、イスラム世界中で祝われます。
巡礼者は特別な白い無縫の衣服「イーラム」を着用し、これが全ての人の平等を象徴しています。
この衣装は、社会的地位や富の違いをなくし、すべてのムスリムが神の前で平等であることを示します。
現代では、ハッジの実施にあたっては厳格な健康と安全の対策が施され、政府や関連機関による管理のもとで行われます。
COVID-19パンデミックの際には、参加者数が大幅に制限されたり、特定の健康基準をクリアする必要があったりと、未曽有の課題に直面しました。
それにもかかわらず、ハッジの重要性は変わらず、世界中のムスリムにとって引き続きその精神性と共同体意識を育む大切な行事であり続けています。
ハッジは単なる宗教的義務を超え、巡礼者にとって深い精神的再生の機会を提供します。
多くの信者にとって、ハッジは自己の信仰を再確認し、罪の赦しを願う場でもあります。
また、異なる国や文化のムスリムが一堂に会することで、国際的な兄弟愛と理解の促進も図られます。
ハッジの物語と儀式を通じて、信仰の深さと人々のつながりの強さを再認識することができるのです。